死神
あるところに、借金まみれの男がいました。
彼は返済のために新たに金を借りようとしましたが、どこからも借りることができません。
そんな姿を見た男の妻は、あんたなんか死んでしまえというひどい言い草ぶりでした。
男は、どうにもこうにも行き詰まっていました。
借金は膨らむ一方で、返済の当てなどどこにもありません。
「こんなことなら、いっそ死んだ方がましだ…」
弱り切った男は、死を決意し、首を吊るための縄を手に取りました。
と、その時です。
「まて、若いの」
声がして、男が顔を上げると、そこに現れたのは、なんと死神でした。
「なんだ、お前は……」
「わしは死神だ。
お前さんが死ぬっていうから、見に来たんだよ」
「死神……!
なるほど、俺を迎えに来たってわけか」
「いやいや、早とちりしちゃいけないよ。
お前さんの寿命はまだある。
ただ、このままだと借金苦で死んじまうだろうと思ってな」
「だったら、どうすればいいんだ!」
「教えてやろう。
お前さんに、金儲けの方法を教えてやる」
死神はニヤリと笑いました。
「この世には、病に苦しむ人がたくさんいる。
そして、その枕元には必ず死神がいるんだ。
死神が枕元にいたら、その人は助からない。
だが、足元にいたら、呪文を唱えて死神を追い払えば、病気を治せるんだ」
「呪文……?」
「そうだ。
『アジャラカモクレン、テケレッツのパ』ってんだ。
簡単なもんだろう?
これで、お前さんは医者になれる」
「医者か……」
「そいつで病人を治して、金持ちになればいいんだよ」
男は死神の言葉に従い、医者になることを決意しました。
さっそく町に出て病人を探し、死神の言うとおりに呪文を唱えると、不思議なことに病人がたちまち良くなったのです。
「こりゃ、すげえ!」
男はたちまち評判の医者となり、みるみるうちに大金持ちになりました。
ところが、男は金を持つとたちまち遊びほうけるようになりました。
女を囲い贅沢三昧の日々を送った結果、あっという間に金は底をついてしまったのです。
「これじゃ元も子もねえ……」
男は再び医者として働くことにしましたが、以前のようにうまくはいきません。
なぜなら男が見る患者の枕元には死神がべったりと張り付いているのです。
死神が枕元にいる患者には呪文は通用しませんでした。
そんなある日、豪商の家からどうしても病気を治してほしいと頼まれました。
「もし治してくれたら莫大な礼金を払おう」
男は一攫千金を夢見て豪商の家へと向かいました。
しかし豪商の枕元にはやはり死神が立ちはだかっています。
「こりゃ、だめだ……」
男は諦めかけましたがふとあることを思いつきました。
「そうだ、あれを試してみよう」
男は豪商の周りに控えている者たちに言いました。
「皆、力を貸してくれ!
合図をしたら、この布団を180度回すんだ!」
そして死神がうとうとしている隙をついて男は合図を送りました。
男たちが一斉に布団を回すと死神は一瞬戸惑ったような表情を見せました。
その隙に男は呪文を唱えました。
「アジャラカモクレン! テケレッツのパ!」
するとどうでしょう。
たちまち豪商の病気は治り、男は大金を手に入れたのです。
しかし、その直後、男は突然意識を失ってしまいました。
気がつくとそこは薄暗い地下の世界でした。
無数のロウソクが灯っており、それぞれがぼんやりと光を放っています。
「ここは……
どこだ?」
「ここは、人間の寿命のロウソクが灯っている場所だ」
死神が答えます。
「お前さんは豪商の寿命を盗んだ。
だから、その償いをしてもらおう」
死神は一本のロウソクを指し示しました。それは今にも消えそうな短いロウソクでした。
「これが、お前さんの寿命だ」
「そんな……!
なんとか寿命を延ばしてくれ!」
男が懇願すると死神はニヤリと笑いました。
「いいだろう。
特別に寿命を延ばす方法を教えてやる。
そのロウソクから別のロウソクへ火を移せばいいんだ」
男は必死に短いロウソクから火を移そうとしました。
しかし手が震えてなかなかうまくいきません。
その様子を見て死神はせかします。
「早くしろ!
火が消えるぞ!」
男は焦るあまり息を吹きかけてしまい、ロウソクの火はふっと消えてしまいました。
「ああ……
消える……」
その瞬間、男もまた息絶えたのでした。
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