概要
古典落語の演目の一つ。
三遊亭圓朝の作とされるが不確か。
3代目桂三木助の改作が有名。
三木助による名演以降、夫婦の愛情を暖かく描いた屈指の人情噺として知られるようになった。
また、5代目三遊亭圓楽が生前最後に演じた演目である。
大晦日に演じられることが多い。
(
Wikipediaより抜粋)

芝浜
裏長屋に住む魚屋の勝五郎は、腕はいいが酒好きで怠け者。
毎朝、芝浜の魚河岸へ仕入れに行くのが日課だが、ここ十日ばかりは酒浸りで店を休んでいた。
「お前さん、早く起きて河岸へ行っておくれよ。
もう十日も商売休んでるじゃないか」
女房のおかよに起こされ、勝五郎はむっつりとした顔で答えます。
「十日も休んでたのか。
……まあ、しょうがねえや。
盤台がねえんだから」
「ちゃんと糸底へ水を張ってあるからいつでも使えるよ」
おかよにそう言われ、勝五郎はしぶしぶと起き上がると、まだ暗い中を芝浜の魚河岸へと向かいます。
しかし、河岸はまだ開いていません。
(かかあのやつ、時刻を間違えやがったな……)
勝五郎はそう思いながら、仕方なく浜辺で夜明けの風景を眺めていました。
すると、砂浜に革の財布が落ちているのを見つけます。
拾い上げてみると、ずっしりと重く、中には小判が一ぱい入っていました。
「こりゃあ、でけえ!」
勝五郎は一目散に財布を持って長屋へ帰ると、おかよと共に中身を数え始めます。
なんと、小判が五十両も入っていました。
「これだけありゃあ、もう好きな酒飲んで、遊んで暮らしていけらぁ!」
大喜びした勝五郎は、朝から銭湯へ行くと、友達を呼んで昼間から飲めや歌えの大騒ぎ。
そのまま酔いつぶれて寝てしまいました。
翌朝、おかよに起こされ、河岸へ行くように言われます。
「河岸に?
冗談言うんじゃねえ。
昨日の五十両があるじゃねえか」
すると、おかよは呆れた顔で言いました。
「なに寝ぼけて馬鹿なこと言ってるんだい。
夢でも見たんだろう。
この家のどこにそんな五十両なんて金があるんだい。
しっかりしてくれなきゃ困るよ」
昨日の大散財で部屋の中は散らかり放題。
勝五郎は混乱します。
「夢?
そんなこと……。
夢にしちゃあずいぶんとはっきりした夢だ。
どうしても夢とは思えねえ……。
財布を拾ったのが夢で、友達呼んで飲み食いしたのが本当の事か……?」
「お前さん、あたしの言うことを疑うのかい?」
「そうじゃねえ……。
そうか、えれえ夢見ちまったもんだ。
金拾った夢なんて、われながら情けねえや。
これというのも酒のせいだ。
よし、もう酒はやめて商売に精出すぜ」
勝五郎はすっかり反省し、改心して商売に励むことを決意します。
もともと腕はいいので、信用もつき評判も上がり、お得意さんもどんどん増えていきました。
三年後、勝五郎は表通りに魚屋の店を構えるほどになります。
大晦日、女房のおかよと苦労話をしていると、除夜の鐘が鳴り出しました。
「今日はお前さんに見てもらいたいものと、聞いてもらいたい話もあるんだけど……」
おかよはそう言うと、汚い革の財布を勝五郎の前に出しました。
「三年前にお前さんが芝の浜で拾った財布だよ。
夢なんかじゃなかったんだよ……」
「……なんだと、こん畜生め!」
勝五郎は驚き、思わず声を荒げます。
「ちょっと聞いておくれ。
あの時、お前さんがこの五十両で遊んで暮らすって言うから心配になって、
お前さんが酔いつぶれて寝ている間に大家さんに相談に行ったんだよ。
そうしたら『拾った金なんぞを猫糞(ネコババ)したら手が後ろ回ってしまう。
おれがお上に届けてやるから、全部、夢のことにしてしまえ』、と言われて、
お前さんに嘘ついて夢だ、夢だと押し付けてしまったんだよ。
自分の女房にずっと嘘をつかれて、さぞ腹が立つだろう。
どうかぶつなり、蹴るなり思う存分にやっとくれ」
おかよは涙ながらにそう告白しました。
すると、勝五郎は言います。
「おうおう、待ってくれ……。
おれがこうして気楽に正月を迎えることができるのは、みんなお前のお蔭じゃねえか。
おらぁ、改めて礼を言うぜ。
この通りだ。
ありがとう」
「そうかい、嬉しいじゃないか……。
久しぶりに一杯飲んでもらおうと思って用意してあるんだよ。
さあ、もうお燗もついてるから……」
「えっ、ほんとか、さっきからいい匂いがすると思ってたんだ。
……じゃあ、この湯呑みについでくれ。
……おう、お酒どの、しばらくだなあ、
……たまらねえやどうも……
だが、待てよ……」
「どうしたんだい?」
「やっぱり、よそう。
また夢になるといけねえ」
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