饅頭こわい
江戸の町の片隅にある長屋。
夕方になると、住人たちが集まり、井戸端会議のように世間話をするのが日課だった。
この日も、数人の男たちが集まり、他愛もない話をしていた。
「なぁ、みんな。
お前ら、何が一番怖い?」
一人の男が問いかけると、周りの男たちは興味津々に耳を傾けた。
「怖いものか……俺は蛇だな。
あのヌルヌルした感じがどうにもダメだ。」
「俺は高いところだ。
梯子に登るだけで足が震える。」
「俺は幽霊だな。
夜中に白い着物を着た女が出てきたら、腰が抜けちまう。」
それぞれが自分の怖いものを挙げる中、一人の男がニヤリと笑いながら言った。
「お前ら、そんなものが怖いのか?
俺なんか、もっと恐ろしいものがあるぞ。」
「なんだよ、それは?」
「饅頭だよ。」
「饅頭?」
男たちは一瞬、耳を疑った。
饅頭といえば、甘くて美味しいお菓子だ。
それが怖いとはどういうことだろう。
「おいおい、饅頭が怖いってどういうことだよ?」
「いや、本当に怖いんだ。
あの甘ったるい匂い、ふわふわした皮、そして中の餡子……
考えただけで震えが止まらない。」
男たちは呆れ顔をしながらも、面白がってさらに問い詰めた。
「本当に怖いのか?」
「怖いとも。
饅頭を見るだけで気絶しそうになる。」
「じゃあ、饅頭を目の前に置いたらどうなるんだ?」
「そんなことしたら、俺は死んじまうかもしれない。」
男たちは顔を見合わせ、いたずら心を起こした。
その夜、男たちは饅頭を買い集め、例の男の部屋にこっそり運び込んだ。
部屋の中には、山のように積まれた饅頭が並べられた。
「これで驚くだろうな。」
男たちは笑いをこらえながら、部屋の外で様子を伺った。
しばらくして、例の男が帰宅した。部屋に入ると、饅頭の山を見て、一瞬驚いたような声を上げた。
「うわっ!饅頭だ!」
男たちは外で笑いをこらえながら耳を澄ませた。
すると、部屋の中から奇妙な音が聞こえてきた。
「……ん?
なんだ、この音は?」
男たちがそっと障子を開けて中を覗くと、驚いたことに、例の男が饅頭を次々と口に運んでいるではないか。
「うめぇ!
やっぱり饅頭は最高だな!」
男たちは呆気に取られたが、すぐに怒りがこみ上げてきた。
「おい!
お前、饅頭が怖いんじゃなかったのか!」
男は饅頭を頬張りながら、悪びれもせずに答えた。
「うますぎて、怖いんだ。
こんな怖いものは食べてしまって、早くなくしてしまうに限る!」
男たちは呆れ返りながらも、怒り交じりな声で聞いた。
「お前が本当に怖いものは一体何だ!」
「そうだな、今は熱いお茶が一番怖い。」
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